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住まい再考

【098】 「座布団」


今の梅雨が上がれば盛夏です。

日本の四季がはっきりしているということは、夏の暑さから冬の寒さまでの温度差が大きいことを意味しています。そんな季節感を味わいながら少しでも快く過ごそうとする工夫が、日常の何気ない生活の中に見られます。

先日、金沢で、旧家の客間へ通されたときのことです。縁先の簾越しの庭を涼しげに眺めながら、すすめられた座布団に腰を下ろしました。厚手の麻布の小振りな夏座布団が、外の熱気を身にまとった私を、ひんやりとした感触で迎えてくれました。私の気持ちを察してくれているかのようでした。座布団がその家の主婦の気持ちを素直に伝えながら、季節感を快く演出してくれていたのです。

椅子式の西洋住宅では、椅子なしの生活ができないことは一目瞭然です。座布団には椅子のような仕掛けがないために、あってもなくても変わりなく生活ができるように見えるのです。しかし、座布団は意外にも西洋の椅子と同様、否、それ以上の内容をもっているのです。

もし座布団のない殺風景な部屋へ通されたとしたら、どんな気分でしょうか。畳の上へ直に腰を下ろす気分と、冬には暖かそうな、夏には涼しげな座布団をすすめられて腰を下ろす気分を想像してみて下さい。

座布団には敷物以上の何ものかがあると思うのです。

座布団では、いろいろな座り方がなされます。座る人は部屋の場面に合わせて座り方を変え、その場に似合った感情を創り出すのです。同じ正座でも、目上の人に対するときと対等の人に会うときとでは、膝や背筋、手などを通じて姿勢を変えることになります。「どうぞお楽に」という言葉を掛けられれば、膝を崩してくつろぐというように、座布団を通じた心の触れ合いがもたれ、姿勢を変えながら気持ちを表現しているのです。ただの四角な綿入りの敷物である座布団のもつ自由さが、そこに座る人の感情表現の自由さにつながるのでしょう。

座布団のサイズには、茶席用、普段用、客用などがあります。そして、夏向きと冬向きの布地の違い。産地による味わいの違い、綿の質や量の違い。さらに季節による模様の違い。このように千変万化が可能な座布団は、室内に彩りを添え、季節感を醸し出し、日本の生活をどんなに過ごし易くしてくれているか知れません。使い方によっては、和風の究極の主役は座布団であるとも申せましょう。
降幡廣信