
住まい再考

よく古い家は落ち着くといわれます。古い住まいには、新しい住まいにないぬくもりや親しみ、そして、そこから生まれる落ち着きというものがあるからでしょう。古い家を訪問した人は口をそろえて、落ち着いてつい長居をしてしまいました、と言います。
古い家にある落ち着きの原因は、新しい家との違いとなる造られた時から経過した年月の差にあるのです。
そこでまず、住まいの木材をみてみます。
新築に使われている柱等は、材木の内部から新しく切り出されて造られたもので、空気や光にさらされるようになってからまだ日が浅い状態です。丸太の内部にあった部分が製材によって形を変えられ、それまでとは全く異なった環境に置かれるため、そこに似合った材質や肌合いに変化を続けます。大気の温度や湿度に影響されて膨張・収縮といった変化をくり返し、徐々に材質が安定していくのです。また、光を受けながら肌の色合いや風合いも安定していくことになります。このように木材が安定して、変化しにくい状態になるのには長い年月を要します。長ければ長い程、材質は安定します。安定し、変化しにくくなった木材からは、新材にない言い知れぬ落ち着きが感じられるのです。
さらに家のもつ落ち着きは、その家の歴史と大いに関係があります。家の歴史はその家が造られた時から今日までの、家と関わりをもったすべての人々との歴史でもあります。家には造ってくれた職人から始まって、住み続けてきた人々の生活が記録されているからです。「柱の傷はおととしの、五月五日の背くらべ」とあるように故意につけた傷もありましょうが、知らないうちに目に見えないような生活の傷を人はどこかに残しているのです。自分の残した傷ばかりではありません。お父さんが子供の頃つけた傷も、お母さんがお嫁にきて残した傷もあるでしょう。さらに、おじいさんやおばあさんの時代の傷から、ひいおじいさんの残した傷跡もあります。
このように、家は家族すべての生活の歴史を正直に記録しているのです。これが新しい家にはないものを古い家にこもらせ、住まいに落ち着きを与えているのです。
降幡廣信














