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住まい再考

【137】 「杉」(一)


日本の文化は「木の文化」と云われます。我々日本人は、どんなにか深く、木との係わりの中で生活をしてきたか知れません。住まいも、家具もそうですが、その他、諸々の場面の中で木を発見して驚かされます。

先日、松本の、旧造り酒屋の建物が移築され、その象徴的目印の看板に用いられた「杉玉」に、多くの人々の質問が集まりました。「杉玉」とは、杉の葉をたばねて球形にしたもので、造り酒屋の軒下に吊るされてきたものです。これは、酒を醸造している家の印で、毎年新酒の出る時に新しく造り替えられます。時あたかも、新酒が出るのは年始めの一月です。杉玉が、酒屋さんの新年の新しい気分の演出に大役をになっていたことが伺えます。

「杉玉」は酒林・酒帚・杉の丸等地方によっていろいろな呼び名があるようです。しかし、その源は酒帚から始まったものらしく、酒の異名を「掃愁帚」即ち、うれいをはらうほうきと呼んだ「帚」にあるといわれます。

酒樽にも杉材が使われてきましたが、それ以前の室町時代には柳の木が用いられていました。柳の木は水分で潤やけて膨張し、少々の隙間でも埋めて酒が漏れなかったのだそうです。しかも柳の木には年輪がないので、刃物が切れなくても加工ができたのでしょう。

樽を造る技術が進歩すると、酒樽は杉材に変りました。杉材は、年輪を形成している軟らかい春材部分と、堅い秋材部分との堅さの差の大きさが、杉材を美しく、しかも味わい深いものにしているのです。反面、刃物が切れないと加工しにくい材質だったのです。

杉材に変った原因は、杉の木に含まれた芳香酸が酒の中に滲み出して、酒に良い香りがつくためです。さらに杉の木の香りを濃くするために、杉の鉋くずを酒の中へいれることさえも行われたほどです。

この杉の香は、食物についても食物の味や香を損わず、ひかえ目でいて香ばしいのが特徴です。住まいにおいても、桧の高貴な香り、松の力強い香りとは違って、ひかえ目で上品な香りとその材質が万人向きのものになっているのでしょう。

ちなみに、杉材がローコストの賃家普請から、最高級の敷寄屋建築にまで用いられてきたのも、原因はそこにあるのです。
降幡廣信