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住まい再考

【139】 「松」


松は、杉と共に日本のいたるところにあって、日本人が特に親しく接してきた木です。

杉は素直に直線的にのびますが、松は幹をくねらせたり力強い枝を張って立ちます。そのために、上空に向ってのびる松の枝には神が宿り、地を這うかのような枝から、神が地に降りると云われてきました。新春にはこの松を伝って神が降り、家族に幸福をもたらすというのです。門かぶりの松にも、正月の門松にもそんな意味があるそうです。

松の樹の姿は大変装飾的です。能舞台のバックの素木の壁に描かれている松からは、他の木にはない力強い美しさが象徴的に表現されています。

松は単にその姿が力強いだけでなく、建築材料として非常に丈夫です。強度はコンクリートの倍から三倍くらいあると云われます。そのために構造材の梁には最適で、屋根を支える梁には必ず松を使うのもそのためです。一般の住宅では天井に隠れて松の梁は見られませんが、天井裏で松の梁はじっと重さに耐えて家を守って来たのです。しかし、古い民家の土間に立って見上げれば、太い梁が縦横に組み合わされているのを見ることができます。その姿は力強くて見応えがあります。こんなところにも、松の持つ装飾性を垣間見る思いがいたします。

松の特徴は脂が多いことです。そのため、昔は、その芯を割り、束ねて燃し、照明用の松明を造りました。松の薪が焼物を造る燃料として用いられるのも、松には脂による強い火力があるからです。日本瓦の黒さも松の脂から出る黒い煙に燻された色です。

松材の脂を多く含んだところを、脂松・肥松と呼んでいて、陽にかざすと脂が赤く美しくすけてみえます。これは銘木として床板や飾り棚に使われますが、強い脂によって素晴らしい光沢も発揮してくれます。

人それぞれ感じ方は違いますが、杉材には軽やかな優しさが感じられ、松には実用的な親しみを感じます。

我々日本人にとって馴染み深く、又日本の美しい風景を提供してくれた緑の松林や、松の山々が各地で枯れ惨めな姿を見つけるにつれ、心が痛みます。

現代の日本の状況を憂えて、松が警鐘を鳴らしているかのようにも感じられてなりません。
降幡廣信