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住まい再考

【141】 「鉄」


日本の住まいは、世界に類のない日本独特の本造住宅でした。しかし、木造であっても決して鉄と無縁であったわけではありません。日本の住宅においてさえも釘と鎹との古い付き合いの中で進歩してきたとも言えます。

人類にとっての鉄器の出現、即ち、鉄鉱を精錬して鉄をつくり、鉄器を加工するようになったのは、紀元前三〇〇〇年以降とのことです。又、前一五〇〇年を過ぎた頃から鉄に対する技術が画期的に進み鉄器時代に入りました。

一方、我が国では、弥生式時時代(前三世紀初)に大陸から渡来した鉄を使用したのが始まりだと考えられ、前一世紀の頃から製鉄技術が芽生え、九州から四国・近畿というように次第に北へ普及していきました。弥生式中期甲板の大分県の遺跡からは、鍬先・鎌などの鉄製品と共に、溶鉱炉跡とみられる遺跡が発見されています。

この時代の鉄の使い方は、最初は武器、斧、包丁などの台所用品等として利用されました。建築に用いられた鉄としては、紀元前四四〇年石造のギリシヤのパンテオン神殿に石をつなぐのに鉄の楔が用いられているのもその一例です。

日本では飛鳥時代以降の宮殿や彿寺に釘の使用がみられます。世界最古の木造建築である法隆寺にしようされている釘は、長さ75cmの大きなものから3.3cmの小さい物まで多種にわたって使用されています。ここに、日本の木造建築が鉄の力を借りて出来上がったことが伺い知れます。

建築の構造材として鉄を使用した例は、十八世紀に入ってからでした。

日本においては、安政四年(一八五七)我が国初の洋式溶鉱炉による製鉄技術が成功し、近代製鉄がスタートしました。鉄を構造材として用いたのは明治元年、長崎や横浜に鉄橋がつくられ、建築の構造としては、明治28年(一八九五)東京・京橋に建った三階建の秀英舎印刷工場が最初とされています。また、鉄筋コンクリート造りは、一八六七年フランスのモニエが特許を得たものが最初で、我が国では明治39年(一九〇六)神戸和田岬の東京倉庫株式会社の倉庫です。

鉄の歩みを振り返ってみると、今日の住宅やマンション等に盛んに使われるに至ったその陰に、人と鉄とによる長い歴史があったことを思い知らされるのです。
降幡廣信